『鉄の話』

内田鍛工株式会社の創業は明治10年(1877年)。始まりは、鉄の鍛造品を造ることからでした。
以来130年以上に渡って鉄を主に扱ってきたわけですが、鉄の歴史はもっともっと古い古代から。大げさにいえば、今や私たちの社会や文明と鉄は、切っても切り離せない関係なのです。
普段は忘れがちなことですが、電気を作って各地に送電するにも、プラスチックを作るのにも、近頃台頭しているITの技術にしても、すべては鉄があってこその話です。ここでは、そんな『鉄』にまつわる話を紹介しましょう。鉄ってスゴイな、と改めて思って頂ければ幸いです。

なにより『鉄』は人が生きるために必須

実は私たちの身体の中でも、生きていくのに必須の栄養であるのが鉄です。

レバーやほうれん草などの食品に多く含まれる鉄分。私たちの身体は鉄を作り出すことができませんので、食物から吸収するわけですが、栄養学的に、鉄分が不足すると鉄欠乏性の貧血などを引き起こします。

血液が肺から全身に酸素を運んでいると言われますが、詳しくは、血液中の赤血球に存在するヘモグロビンが酸素を運んでいるのです。この大切なタンパク質であるヘモグロビンの合成に、必要不可欠なのが鉄分。

血液が赤いのも、ヘモグロビンに鉄イオンがあるためって、ご存知でしたか。

成人男性であると1日約1mgの鉄が使われて失われます。

人の身体に通常蓄えられている貯蔵鉄は、約1,000mg。この貯金が減ると、貧血となって現れてくるわけです。

鉄分が多いことで有名なレバーでも、1食分(50g)の鉄の含有量はわずか6.5mg。人の場合、摂取された鉄の10%だけが吸収されるので、1日約1mgの鉄が要る男性ならば、10mgを摂らなければいけない計算です。

これが成人女性となると、月経による出血があるため1日2mgが必要で、妊娠ともなると1日3mgは鉄を摂取しないといけないと言われます。お腹の赤ちゃんにも鉄分を分けてあげるためですから、責任も重大。近年はダイエットの弊害もあって貧血も多いらしく、サプリメントもたくさん出ています。

赤ちゃんだけでなく、成長期の若者にも鉄が大事な栄養なのはもちろん、逆に消化器官の弱った高齢の方でも、鉄分が不足になりがちです。
他にも地球の様々な生き物や植物にまで、鉄は栄養となっています。鉄と人との関わり。これは生きていく上で、思った以上に深くて密接ではないでしょうか。

なにより『鉄』は人が生きるために必須

なにより『鉄』は人が生きるために必須

『鉄』とは長い長いつきあいです。

日本に鉄が伝わったのは紀元前3世紀頃、弥生時代。水田の稲作、青銅などとほぼ同時期の流入ですが、なんといっても近代につながるエポックとなったのが、16世紀の近世、戦国時代です。織田信長を初めとする武将達が、ヨーロッパからもたらされた銃器の生産技術を活用した活躍は、今でもドラマや小説で親しまれるほど。その結果、日本(当時の鉄器製造の中心地は堺)は、東アジアでも抜きん出た鉄の加工技術を持つこととなりました。
この技術力は(堺の鍛冶師、鋳物師といった職人たちが全国に広がって)そのまま江戸時代、明治、そして今日まで続く発展の礎(いしずえ)となります。
日本では独自の呼称として、銀をしろがねと呼び、それより輝きは劣るものの高い材料強度を有することや、黒く錆を生じることから、鉄をくろがね(黒い金属)と呼んだりしました。

鉄と人類のつきあいは本当に古くから。人工的に鉱石から鉄を製鉄したのは、紀元前15世紀頃、アナトリア半島(現在のトルコ共和国領土のアジア部分)のヒッタイト人というのが定説。ファラオ王で有名な古代エジプト文明から青銅器を使用していた古代ギリシアのミケーネ文明、そしてヒッタイトの鉄器に至るのが紀元前15世紀。有史以前にも、隕鉄(主に金属鉄(Fe-Ni合金)から成る隕石)を利用した鉄の使用が認められています。

大まかに言えばヒッタイトから西アジア、エジプト、ギリシアを経てやがて中国へと、製鉄技術は普及しました。
青銅器と比べると鉄器は、大量生産がしやすく耐久性にも優れて、武器として、また農器具として定着。
今日までずっと使われ続けている素材という鉄。文明の歴史といっても大げさでないでしょう。

『鉄』とは長い長いつきあいです。

『鉄』とは長い長いつきあいです。

もっとも身近で大切な資源『鉄』のリサイクル

携帯電話やコンピュータの部品として、金といった貴金属類が使われている。このような金を回収して再利用することから、都市鉱山なんて言葉も近年生まれました。これは鉄もアルミも銅もすべて同じこと。天然資源に乏しい日本にとっては、くず鉄などと呼ばれるスクラップもとても大切な資源です。
鉄には強磁性があるから、不燃物からの分別回収も容易。金属製品の廃棄物や、製造の加工工程で生じる廃金属もきちんとリサイクルされている。先進国として、鉄鉱石もすでに製品済みとなっている鉄(ビルや車、あるいはスクラップ)もすべて含めて、日本の鉄備蓄量は高いと言われます。これは繰り返し鉄が再生利用されるからで、くず鉄と呼ばれてもゴミ扱いはされていない証拠です。

鉄は、鉄筋や鉄骨として多くのビルや橋、塔の建材に使われる。炭素などの合金元素を添加することで鋼(はがね)となり、この炭素の添加量や焼き入れの具合で硬くなったり柔らかくなったり。加工しやすく安定しているから、金型になったり刃物や自動車の部品に使われたり。様々な金属と有用な合金を生むことから、クロム・ニッケルとの合金でステンレス鋼になったり。強度の高い工具鋼や、金属中でもっとも熱膨張せず精巧な時計材料に使用されるインバー合金や、磁性材料として磁石となるKS鋼に化けたり。身近なところから宇宙開発まで可能性も用途も幅広く活用されている鉄。私たちの暮らしを成り立たせるのに、鉄のない社会などありえないほどです。

鉄の再利用のリサイクル率をさらに高めることが、今後の課題です。世界的な鉄鋼資源の不足に対処するにも、また地球という資源を大切に使うことにも、この重要性はますます高まっていくことでしょう。
私たちが鉄を利用してきた歴史。まだまだ当分は続いていくと言えそうです。

もっとも身近で大切な資源『鉄』のリサイクル

もっとも身近で大切な資源『鉄』のリサイクル

「鉄」という漢字をよく見ると、「金」と「失」で出来ています。旧字体では「鐵」と書いて、これならば「金・王・哉」に分解できたものの、現行の字体では「金を失う」と書いているのです。これを嫌がる商売人や事業者もいて当然。「大井川鐵道」「和歌山電鐵」などのように今でも旧字体を使い続ける会社があり、またJRグループの各社名ロゴでも、よく見ると鉄の字の「失」の部分が「矢」になっています。旧国鉄から民営化される際に、縁起が悪いと意識的にされたことだとか。歴史があって古くからある鉄道会社、鉄とは縁の深い商売ですから、やはりこれは一大事でしょう。

そういえば私たち内田鍛工株式会社は…。鉄の一文字は見あたりませんが、「鍛」の字が。これはもちろん、金属を「鍛える」、ですね。

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